つながれば、社会は変えられる

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これからは災害時に企業の”商助”が鍵になる。 防災×データ活用の可能性とは。

なぜ私たちは共創しなくてはならないのか。パーソナルデータの利活用によって、実際にどのような価値が生まれるのか。
今回は「防災」というシチュエーションを取り上げて、上記のテーマについて考えます。

対談のお相手は、岡山県で官民のデータ連携を進めている一般社団法人データクレイドル代表理事の大島正美さん。2018年の豪雨災害を経て感じられた課題意識やデータ連携の意義、民間企業が果たすべき役割などを紐解きながらお話を伺いました。


目 次

官民ともに手を取り合って。進みゆくデータの利活用。
「自助」と「公助」に加わる新たな支援のかたち”商助”。
商助の取り組みをデータによって可視化する。
平時と有事をシームレスにつなぐのがこれからのサービスのあり方。

大島正美

(おおしま まさみ)

民間企業研究所において情報検索技術者としてキャリアをスタート。文献・特許調査に携わった後、独立しベンチャー企業を経営。2005年からは岡山県を拠点に産業振興財団評議員や産業振興財団登録専門家などとして活動。また、地域 IT ベンダーマネージャーとして中山間地域の 高齢者見守り、買い物難民、医師不足などの課題を ICT で支援する活動も行う。2015年からは一般社団法人データクレイドルの理事に就任。オープンデータを活用して防災対策にも取り組む。

佐藤歌音

(さとうかのん)
BIPROGY株式会社
戦略事業推進第二本部 事業推進第二部
企業共創プロジェクト1G

2021年大学卒業後、日本ユニシス株式会社(現BIPROGY株式会社)に入社。配属後から、パーソナルデータ流通プラットフォーム「Dot to Dot」の新規企画、並びに価値交換基盤「doreca」のイシュアー企業開拓に従事。2年目の今年度から本格的に「Dot to Dot」の販売戦略チームに参画しており、当サービスについて絶賛勉強中。

官民ともに手を取り合って。
進みゆくデータの利活用。

佐藤

まず、官民のデータ連携の変遷について伺えればと思います。

大島さん

もともと私の専門である情報管理の分野では、蓄積されたデータをどのように標準化してアクセスできるようにするか、といったことに取り組んでいました。

その中で、2010年代からオープンデータの推進がスタート。いくつかの自治体で行政データが公開され、それらを地域で活用していくという流れが生まれはじめました。

そして、データ活用人材を増やして、地域の課題解決と活性化を目指した地域創生事業へと展開。私自身も岡山県で一般社団法人を立ち上げて、地域におけるオープンデータ活用の道を模索してきました。

佐藤

オープンデータの推進がはじまった2010年代当時と比べて、現在はどのような変化がありましたか?

大島さん

民間側からは「オープンデータが足りないからイノベーションが起こらない」、行政側からは「求められるものがわからないからデータが出せない」といったように「鶏が先か、卵が先か」といった議論がありましたが、その状況も少しずつ変わってきました。

2016年には「官民データ活用推進基本法」が施行。闇雲にデータを出すのではなく、地域の課題に対してお互いが手を取り合えるようにするために行政側がデータを公開し、民間側が利活用していく、といった流れが生まれているように思います。

「自助」と「公助」に加わる新たな支援のかたち”商助”。

佐藤
大島さん

オープンデータ活用支援をしていた中、私が活動している岡山県で2018年に豪雨災害が起きました。そのときに「防災の分野でデータにできることはないのか」「どんなデータがあったらよかったのか」と考えるようになったんです。そこで、避難行動における課題に気づきました。

佐藤
大島さん

避難する際に選び取れる選択肢が少ないと住民が思っていること。コロナ禍でいわゆる“三密”を避けるような動きの中でようやく「分散避難」という言葉を聞くようになり、自分自身で逃げ方を考えるようになりましたが、当時はまだそういった考えは浸透していませんでした。

自治体の人が「逃げろ」と言ったら逃げる。「逃げ先はここだ」と言われたらそこへ行く……「指示があったら最寄りの避難所に駆け込む」がほとんどの人が取る選択肢だったんです。

医療や物資、炊き出しといった支援情報も避難所を中心に広報されます。行政側も、資源や情報を集約させられるので、効率が良かったんです。

でも、それでは、避難所に来られない人もいるので、必要な支援が届かないケースもあります。

佐藤
大島さん

たとえば、暮らしている街と活動している街が異なるとき。昼に災害が起きて、子どもがいる学校と自分が働いている会社で行政区が異なったら、異なるルールに応じて避難活動をしなければなりません。

また、足が悪いお年寄りの方、幼い子どもがいる家庭などそれぞれに事情もあるため、一斉に住民が集まる避難所に駆け込むのが難しいケースもあります。そうした人たちにも支援の手が届くように考える必要はあるでしょう。

佐藤
大島さん

自助、公助、共助といった支援に加えて、「商助」という考え方が鍵になると考えています。

平時のときってそれぞれが対価を払って自分の望むサービスを選んでいるじゃないですか。その行動を有事のときにも取れるようにするんです。

災害が起きた途端、人って「みんなと同じ行動を取らないといけない」「行政の言うことに従わないといけない」と受け身になってしまいますよね。でも、平時から自分が利用しているサービスや商品を、有事でもお金を払うことで利用できるのであれば、自分の身を守る新たな選択肢が生まれると思うんです。

大島さん

事業者側からすると「被災者からお金をもらってはいけない」という意識はあるかもしれません。

でも、よく考えたら、少しの対価でいつもの暮らしの延長線上で避難生活を送ることができるのであれば価値はある。決して避難自体をビジネスにするという意味ではなく、災害時に「有料サービス」という分野があってもいいのではないか、という提案です。

佐藤
大島さん

たとえば、送迎サービスを行ったり、ペットを預かったり、安全な高台の駐車場にクルマを停めることができたり、さまざまな選択肢があるでしょう。

でも、改めて考えると、それらって全て平時には普通に対価を払って享受していること。でも、被災時になると、それらを我慢したり、諦めたりするマインドになってしまうんですよね。

そこで普通に「サービスを提供しているので、いつでも使ってください」というと、驚かれることもありますが、救われる人もいるんです。

商助の取り組みをデータによって可視化する。

佐藤
大島さん

「事業者が助けになるものを提供する」のが商助だとすると、その情報がまだまだデータとして可視化されていません。

それぞれの地域では、自治体によって地域防災計画がつくられます。そこには、協定書を結んだ各地域の事業者が協力事業所として登録されており、水や物資、トイレの提供をはじめとした災害時に行う支援活動の内容が明記されているんです。ただ、その情報って何十ページもある資料の最後に記されているだけ。多くの住民はアクセスしづらいものになっています。

だからこそ、たとえば「水を提供してくれるお店一覧」「食事提供しているお店一覧」のように支援を行っている事業所の情報が地図上にマッピングされていれば、「帰りはこのお店とこのお店によって、水と食料をもらっていこう」といったように最適な行動を取りやすくなります。

佐藤
大島さん

その通り。災害時に使える事業者側のリソースがしっかりデータ化されていれば、日常でも災害時の計画が立てられるし、行政も最適な誘導の仕方を考えられるかもしれない。事業者側も「この地域ではこういうサービスが足りないから、うちが提供しよう」と考える可能性もある。そうすると、「この企業は、ものを売るだけじゃなくて、もしもの時に支えになるんだ」という信頼関係が生活者との間に生まれるかもしれませんよね。

それが商助のひとつのモデルになるはずです。

平時と有事をシームレスにつなぐのがこれからのサービスのあり方。

佐藤
大島さん

個人に最適なサービスを受けられるようになると思いますね。

たとえば、アレルギーや送迎の要否、ペットの有無などは個別の対応が必要になります。さらには、外出先で災害に遭ったときには、自分の状態を知っている施設が周りにないわけです。そのときに「自分はこういう状態で、こういうときには、こういう支援を必要としています」ということを予め伝える術を持っていれば、見ず知らずの土地でも最適なサービスを受けやすくなる。

逆に事業者側も「この人が、こういうことを必要としているんだ」とわかれば、そのニーズを満たすサ
ービスを考えられるようになる。信頼関係の中でパーソナルデータを提供することで、自分が必要としている提案を受けられる商助を得られることにつながるんです。

佐藤
大島さん

パーソナルデータが連携されていない世界では事業者側も、被災者を十把一絡げにしか捉えることができず本当に必要な支援が見えにくくなると思います。そこで「誰が何を欲しがっている」という状況が予め可視化されれば、そのニーズを埋める準備もできますよね。

佐藤
大島さん

そうですね。今は、平時と有事が別物になりすぎています。私は、防災って「健康」と似ていると思うんです。病気になったときだけ病気のことを考えるのではなく、日頃から病気にならないように健康的な生活を送る努力をする。それと同じことなんです。

佐藤
大島さん

現状は、さまざまな活動が分断されているんですよね。もちろん行政や事業者の方たちは、それぞれの立場でできる支援を個別にしています。でも、それがつながらない。災害という有事のときには、事業者も、自治体も、個人もお互いにつながりながら被災者生活の質的向上を目指していくことが大切だと考えています。

佐藤

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