つながれば、社会は変えられる

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IT業界の先駆者とイノベーションが生まれる環境を考える(2/3)

今やデジタル後進国となってしまった日本。この国でビジネスを展開する私たちには、どのような意識が必要なのか。イノベーションを起こすために、どのようなマインドが求められるのか。

そんな課題意識をもとに、日本IT業界の草分け的存在の木寺祥友さんとともに日本のITビジネスの“これまで”と“これから”を考えていく本企画。第2回の今回は、Web3をテーマに今後社会が進むべき世界について、語ってもらいます。


目 次

イノベーションは、「サービス」からではなく「テクノロジー」から始まる。
「Web3とは何か?」その答えは、もう少し先の未来にある。
これから求められるのは、「トラスト」があるインターネット。

木寺 祥友

(きでらよしとも)

横浜市生まれ。パソコン黎明期よりIT業界へ足を踏み入れ、日本初のJavaプロジェクトにかかわり日本人としてはじめてJavaをプログラムする。
携帯電話にJavaが搭載されることを機に株式会社エル・カミノ・リアルを設立。NTTドコモ504iシリーズのiアプリ(携帯Java)のプラットフォーム作りに携わる。ラスベガスにおいて米国最大の携帯電話コンファレンスCTIAで講演。スマートフォンJavaともいえるアンドロイドの開発にも関わる。
政府系のIT組織、社団法人オープンガバメント・コンソーシアム顧問。

イノベーションは、「サービス」からではなく「テクノロジー」から始まる。

第1回目のインタビューでは、日本と海外の現状について聞きました。それでは今後社会はどのように進展していくのでしょうか?

木寺さん

社会の変化には、ひとつの特徴があります。それは、「サービス」からではなく「テクノロジー」からイノベーションが起きるということ。まずは、それまでの時代ではできなかったことをできるようにするテクノロジーが先行する。その土台の上に新たなサービスが生まれてくるんです。

たとえばYouTubeというサービスが生まれてきたのも、早くたくさんのデータが送受信できるというテクノロジーの土台があったからこそ。どんなサービスが生まれるか、どんなイノベーションが生まれるかは、最先端のテクノロジーを追っていくと読みやすくなります。

なるほど。たとえば、今木寺さんが注目している進化はありますか?

木寺さん

わかりやすいところでいうと、折りたたみスマートフォンですかね。私自身、使っているけれど、画面が大きく使えるから隣の人にコンテンツを見せるときにとても便利なんですよ。今後、このデバイスに合わせたコンテンツの発展も進んでいくのではないでしょうか。

木寺さん

これは、あくまでひとつの例。ただ、確実に端末は進化していくと思います。
たとえば、容量が増える、CPUが改善される、画面が高精細になる、など。100テラバイト級の容量を持ったスマートフォンが開発されたり、今より鮮明な動画や画像が表示されたりするのも時間の問題でしょう。それも一種のテクノロジーの進化です。

端末以外にも、確実に訪れそうな進化はあるのでしょうか?

木寺さん

あとはWi-Fiのポイントは増えるでしょうね。ネットワークの高速化も、これから確実に起こる未来のひとつだと考えられます。

もしかしたら、モバイル通信が終わって、Wi-Fiのポイントだけで通信環境が担保される日が訪れるかもしれない。5Gから6G、7Gと発展していけば、今当たり前のように使っている「キャリアSIM」「モバイル通信」のような単語が死語になっていてもおかしくないですよね。

「Web3とは何か?」その答えは、もう少し先の未来にある。

今、Web3の時代が訪れていると言われています。現在、Web3は、どのような状況なのでしょうか?

木寺さん

正直、まだWeb3の概念を代表するようなユースケースが現れていないのが現状だと思います。だから、Web3を使って何かをつくろうとするプレイヤーも、Web3を意識して利用している生活者もまだまだ少ない。


でも、近い将来、Web3の時代の到来を象徴する事例が現れてくるはず。双方向のインターネットと言われるWeb2.0のときも、当初は「大手メディアにコメントが記入できるようになる」程度の解釈で留まっていた時期がありました。
でも、それって全然ワクワクしないじゃないですか。

SNSなどのプラットフォームを通じて自分で自由に発信も受信もできる時代が訪れてこそ、Web2.0の本領を目の当たりにしたわけです。だからこそ、ブロックチェーンや仮想通貨、NFTのようなトピックも、まだまだ枝葉の話に過ぎません。その先にまだ見ぬワクワクする展開が待っていると私は考えています。

木寺さん

あえてWeb3の特徴を挙げられるとしたら、デジタル空間上でさまざまな“価値”をやり取りする「価値のインターネット」ということでしょう。まだまだ抽象的な表現ですが、近い将来「こんなことがインターネットでできるようになったのか!」という事例が出てくることでしょう。

これから求められるのは、「トラスト」があるインターネット。

世界中がWeb3の時代を拓こうと手探りしている中、木寺さんは生活やビジネスシーンにおいて今後どのような変化が起こると考えていますか?

木寺さん

たとえば、検索の方法が変わるのではないでしょうか。今は、誰がどういう目的で情報を取りに来ているのかわからない、悪用されているかもわからない。情報の公開や提供は常に不安がつきまといます。また、単に人の眼に触れやすいからといって、Googleに検索結果上位に表示してもらうためにコンテンツをつくっている。そんな本末転倒の状態にもなっているんですよね。

だから今後は、個人の端末にクローラーが入って、やりたいこと・探したいことを先回りして予め世界中のサーバーから情報を得るようになる。そんな未来が訪れるかもしれません。

なるほど。そんな未来ではどんなことがポイントになりそうでしょうか?

木寺さん

そこでは「こんな人がこういう目的でデータを欲しがっている」「それだったらデータを開示するよ」といった相互確認が生まれます。そこには信頼が欠かせません。つまり、重要なのは「双方向の信頼でつながる」ということです。

たとえば、とあるブランドがガレージセールを行うときに、転売を禁止することに似ています。「あなたたち自身の暮らしを良くするという用途に使ってくれるのであれば、自分たちが大切にしてきたアイテムを安く提供します」ということなので。

お互いの信頼関係のもとデータのやり取りが行われていくということですね。

木寺さん

そう。だからこそ、これからはデータの保有者は「自分のデータがどう使われているのか」を気にするようになっていくでしょう。

すでにヨーロッパでは、そのような傾向が生まれはじめています。
たとえば、今AIによる画像生成ツールが流行っていますよね。でも、そのAIが参考にしているデータソースは、インターネットに落ちている画像たち。「もしかしたら、自分が描いた絵が知らない間に使われているかもしれない」とデータ所有者たちが声を上げ始めているんです。

「便利になりますよ、だからデータをください」といっても、自分のデータが裏で意図していない使われ方をされていたら嫌ですよね。「どこで、何をして、誰と会ったのか」など、自分のパーソナルデータってプライバシーそのものですから。

だからこそ、社会全体でデータに対して、公正に流れているのかをシビアに見るようになってくるでしょう。
そうなってくると、データを活用する側も、提供されたデータが適切な用途・仕組みで取得されたのか、アウトプットデータを提供する企業自体が信頼できるかを気にするようになります。その意味では、公共性の高い行政のオープンデータはこれからますます重要性を増していくと考えています。

これまでのインターネットとの違いは信頼関係、つまり「トラスト」なのかもしれませんね。

木寺さん

そうかもしれませんね。これまでの中央集権的なインターネットの世界で、徐々に多くの生活者が違和感を持ち始めていると思います。たとえばバナー広告は、やたら煽ってくるものばかり。メールやSNSでもスパムが横行している。生活者は、自分の目的じゃないものを強制的にプッシュされることに抵抗感を持つようになってきています。

いわば無法地帯になりかけているインターネットの世界において、リアルと同じように自分自身が信頼した相手とだけやり取りするトラストという概念を持ち込めればいい。そうすると、新たな世界が訪れるのではないかと思います。

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