つながれば、社会は変えられる

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「1業種1社」で対峙できない社会課題へ。 ビジネスのルールが変わる今、Dot to Dotが果たす役割とは。

社会課題解決に向けてさまざまなステークホルダーと取り組んだり、製品開発に消費者の声を取り入れたりと、世界各地・さまざまなシーンで進むオープンイノベーション。

しかし、なぜ今オープンイノベーションが求められているのでしょうか。そこには、どのような背景があるのでしょうか。

今回は、経産省やベンチャー企業での勤務を経たのち、Scrum Venturesにて大企業と海外のスタートアップとの事業共創を手掛けている桑原 智隆氏に話を伺うことに。

日本が目指すオープンイノベーションのかたちとは。そこでデータはどのような価値を発揮できるのか……日本国内における事業共創の最前線に立っている桑原氏の視点をお聞きしました。

※本原稿は2023年2月取材時点の情報です。


目 次

「1業種1社」、自社の枠組みを超えて生み出す事業共創。
官民連携、社会課題と経済成長の両立、ウェルビーイングの追求……「新しい資本主義」が目指す姿。
これから求められる「人・もの・データ」の最適化。
Dot to Dotが切り拓く「パーソナル・エシカル・プレミアム」な消費行動。

桑原 智隆

(くわはら ともたか)

1998年、通商産業省(現:経済産業省)入省。エネルギー・環境、自動車産業、情報政策、経済産業政策、Society 5.0実現を中心とする成長戦略を担当。在サンフランシスコ総領事館領事、内閣官房日本経済再生総合事務局企画官等を歴任。2018年、ベンチャー企業Origamiを経て、2020年3月、Scrum Ventures参画。東京大学法学部、カリフォルニア大学大学院(UCSD IR/PS)卒。

佐藤歌音

(さとうかのん)
BIPROGY株式会社
戦略事業推進第二本部 事業推進第二部
企業共創プロジェクト1G

2021年大学卒業後、日本ユニシス株式会社(現BIPROGY株式会社)に入社。配属後から、パーソナルデータ流通プラットフォーム「Dot to Dot」の新規企画、並びに価値交換基盤「doreca」のイシュアー企業開拓に従事。2年目の今年度から本格的に「Dot to Dot」の販売戦略チームに参画しており、当サービスについて絶賛勉強中。

「1業種1社」、自社の枠組みを超えて生み出す事業共創。

佐藤

まずは国内のオープンイノベーションの現状からお伺いできればと思います。どうして今、オープンイノベーションが盛んになっているのでしょうか?

桑原さん

それは「1業種1社」、つまり自社によるクローズドイノベーションというビジネスモデルが見直されてきているからだと言えるでしょう。

技術革新により、プロダクトサイクルが短くなり、新規サービス・事業の立ち上げのハードルが下がり、生活者との接点・ニーズも複雑で多様化しています。そんな状況においては「1業種1社」自社で解決できることには限界がある。それぞれのサービスがシームレスに連携して、トータルで大きな価値をつくったり、もっとパーソナライズされた体験を提供したりできるかどうかが鍵になります。

だからこそ、大企業も、スタートアップ企業も、それぞれの事業者が垣根を越えて価値を共創していく流れが生まれつつあります。

佐藤

実際にオープンイノベーションの最前線に立っている桑原さんから見て、事業を共創していく際にはどんなことが大切だと感じていますか?

桑原さん

大企業とスタートアップ企業では、カルチャーや行動原理が異なります。その中では、いかにお互いの長所を活かしながら、足りないところを補完し合うかが重要になってきます。

2016年には「官民データ活用推進基本法」が施行。闇雲にデータを出すのではなく、地域の課題に対してお互いが手を取り合えるようにするために行政側がデータを公開し、民間側が利活用していく、といった流れが生まれているように思います。

たとえば、スタートアップ企業には「テクノロジー・ビジネスモデル・スピード感」といった長所がある。将来のあるべき社会や未来の豊かな暮らしを思い描き、バックキャスティングしながら、高い技術力と熱量でかたちにしていく、といったスタンスがスタートアップ企業の大きな強みです。しかし、事業をスケールさせるために必要な社会的信頼や洗練されたオペレーション、潤沢な資金など「パワーtoスケール」が圧倒的に足りません。
一方、大企業は、「パワーtoスケール」はあるけれど、小さすぎる事業は間尺に合わないと敬遠しがち。「リソースをかける以上は数十億の事業に育てないといけない」という意識が働くので小回りの利いた事業創造がしづらい面があると思います。

このように大企業とスタートアップ企業、それぞれの足りない部分を埋め合うことが事業共創には欠かせません。そして、スタートアップ企業はビジネス成長と社会価値創出のエンジンとして重要、という視点が必要です。

佐藤
桑原さん

スタートアップ企業との事業共創に関心の高い企業の方によく伝えているのが、いち生活者として発想すること。

たとえば、X軸を“会社としての”重要度、Y軸を“個人としての”重要度としてマトリックスを作成します。X軸の右側に行くほど会社として大切で、Y軸の上側に行くほど個人として大切なことだとすると、第一象限での取組に加えて、意外にチャンスなのが左上の第二象限。つまり、「今は会社として事業化を進めてはいないけれど、自分はこういうことを実現したい」という領域です。

でも、そこにスタートアップ企業や他業種とも連携するという選択肢があれば、それがオープンイノベーションによる新規事業のアイデアになる。

≪4象限グラフ≫
佐藤
桑原さん

そう。一度会社の看板を外して、「こんなサービスがあったらいいな」と一人の生活者として考えてみることは、いろいろな物事が動き出す出発点になると思います。そこには、具体的なペインやニーズもあるし、自分自身の想いも詰まっているから高いコミットメントも生まれる。

「会社が仕事を与えてくれる、という発想から、会社の機能を活用してどのようなことをしたいか、自分や周囲もほしいサービスをかたちにするには、自分の会社にあるどんな機能を活かせるか、足りない機能を補うためにどんなスタートアップ企業や他業種とパートナーシップを結べばいいのか」……その想いを出発点にすれば自社だけ、つまり「1業種1社」という枠組みを超えた事業共創がかたちになりやすくなると思います。

官民連携、社会課題と経済成長の両立、ウェルビーイングの追求……「新しい資本主義」が目指す姿。

佐藤
桑原さん

たとえば今、政治の世界では「新しい資本主義」と言われていますよね。実際に何が「新しい」のかを紐解くために、これまでの資本主義を簡単に振り返ってみましょう。

これまで資本主義には2つの転換点がありました。1つめは、第二次世界大戦後のタイミング。ここでは、国家による経済や社会制度への介入が限定的だった自由主義から、積極的に経済や社会制度に積極的に介入する福祉国家への転換がありました。2つめは冷戦後。ここではグローバル化を追求していくことで経済の活性化・社会福祉の充実を目指す新自由主義が謳われるようになりました。そして、今新たに3つめの転換点が到来しようとしています。それが「新しい資本主義」なんです。

佐藤
桑原さん

「新しい資本主義」では、ビジネスの世界に3つの変化が生まれていくでしょう。

1つめは、官民連携です。
これまでは市場だけで解決できない外部性の大きな社会的なトピックに対して「国か?市場か?」「官か?民か?」といった二元論で語られがちでした。でも、地球温暖化や少子高齢化など複雑多様化している社会課題に取り組んだり、インクルーシブな社会をつくったりするためには、垣根を越えて官と民が連携する必要があります。

2つめが、社会的にまだ十分に投資がなされていない地球温暖化などの課題を単にネガティブな「危機」として捉えるのではなく、課題解決を通じた新たな市場創造のポジティブな「機会」として捉えていこうとする点です。
つまり、社会課題解決も経済成長も一緒に追求する。この「二兎を追う」という視点です。企業のCSRやインパクト投資といった取り組みを超えて、事業を通じて持続的に取り組む。ビジネス・経済成長と社会課題解決を可能とするイノベーションを社会実装する。そのために、政策側は、そのエンジンであるスタートアップ関連政策を推進するとともに、未来投資の主役である民間が活動しやすくなるように障壁があれば取り除き、新しいルールを再構築していこうとしています。

そして3つめが、ウェルビーイングの追求です。
「新しい資本主義」では、社会課題解決を通じて、一人ひとりの多様なニーズに応えた幸福を実現していくことが重視されます。これまでは経済活動において「マス」という概念の中で、大量生産・大量消費がベースになっていました。でも、これからはいかにパーソナライズされているか、自分にとって価値あることだと感じられるかが重視されていく。そんな多様なウェルビーイングを実現するためのサービスやプロダクトの開発が求められていくことでしょう。

これから求められる「人・もの・データ」の最適化。

佐藤
桑原さん

データは、個人にとって価値あるサービスが生まれやすくなる土壌をつくってくれると考えています。

というのも、今はキャッシュレス決済の普及などスマートフォンをはじめとして各種デバイスでできることがどんどん増えている。つまり、それだけサービスと生活者のタッチポイントも増えているということです。

そうした日常のさまざまなシーンで生まれるパーソナルデータを健全かつ効果的に活かせば、一人ひとりのライフスタイルに寄り添った、嬉しい便利なサービスを届けられるチャンスが増えるはず。

桑原さん

でも、その環境は「1業種1社」をベースにしたビジネスの世界だと上手く活かすことができません。

なぜなら、それぞれの消費行動がシームレスにつながっているから。

たとえば「健康」について考えてみるとわかりやすいでしょう。「病気になったとき、病院に行って診察を受ける」という断片的なシーンだけ見ていても、個人にとって嬉しいサービスは生まれません。健康維持のために通っているフィットネスのデータや定期的に受けている健診データなどを診療に活かすこともできれば、より個人にとって嬉しい医療サービスを受けられるようになるはずですよね。

佐藤
桑原さん

はい。特にコロナ禍を経て、データが活躍する領域が増えてきているように思います。わかりやすく言うと、「人・モノ・データ」の流れが変わりはじめている。

たとえば、仮に地方の高齢者が医者に診てもらおうとすると、これまでは本人がバスや電車などで移動して、診察を受けて、薬をもらって、また交通機関に乗って帰るという流れでした。しかし、これからはオンラインで診察を受けて、薬がデリバリーで届く、といった流れも可能になる。

つまり、「人」の移動でなされていた経済活動が、「データ」「モノ」の移動に置き換わる。こうした、「人・モノ・データ」3つの流れの最適化は、御社とご一緒に進めたグローバルな事業共創プログラムでも大きなテーマになりましたね。

佐藤
桑原さん

そう。だからこそ「人・モノ・データ」の最適化を軸にした事業共創やイノベーションは、都市部よりも「人」の移動のコストが相対的に大きい地方から起こっていくのではないかと思います。都市部のサービスが地方へ、ではなく相対的にペインを抱えている地方の課題に向き合うイノベーションが早く実装されることも私も期待しているところです。

Dot to Dotが切り拓く「パーソナル・エシカル・プレミアム」な消費行動。

佐藤
桑原さん

私は、Dot to Dotには2つ期待していることがあります。

1つめは、トラストのあるかたちで、業種や企業の枠を越えたデータ連携が生活者のためになされる基盤であるということ。
つまり、生活者にとってみたら、自らの意思を反映して、便利なサービスとして価値が還元されるという新しい経験を得られるインフラなんですよね。重要なのはトラストがあること。利用目的や連携項目を確認して同意した企業のみに提供される安心感が、Dot to Dotにはあります。とくに、そのパーソナルデータは、利用目的や連携項目を確認して同意した企業のみに提供されるので、トラストがある状態です。先ほど例で挙げた医療でのデータ連携などは、とりわけプライバシーに関わる情報。だからこそ、安心・安全なデータ利活用基盤であることは、とても大切なポイントだと思います。

日本は、2019年に開催されたダボス会議やG20大阪サミットで「DFFT(Data Free Flow with Trust)」という概念を提唱しています。これは、プライバシーやセキュリティ、知的財産権への信頼を確保しながら、ビジネスや社会課題に有益なデータの流通・活用を進めていこうという考え方。日本が国際的に打ち出している概念なので、トラストのあるデータ流通はますます重要視されていくはず。そんなとき、Dot to Dotは先駆けとして存在感を発揮していくことになるでしょう。

2つめは、そんなトラストがあるパーソナルデータの連携基盤の上で、安心便利で具体的なサービスが社会実装されるエコシステムになり、データ流通基盤としてもしっかり機能していること。現在もDot to Dotに共感しているパートナー企業とともに具体的に取り組みを進め、いくつものプロジェクトを動かしていると思いますが、そのどれもが安心・信頼できるものであることが重要です。そうすることで「Dot to Dotの上で展開されているサービスだったら安心だ」という信頼感につながっていく。Dot to Dotの世界観をつくり・守っていくパートナー企業と協業し「インターオペラビリティ(=相互運用性)」を確立することは、とても期待しているところです。スタートアップ企業との事業共創にも注目しています。

佐藤
桑原さん

「パーソナル・エシカル・プレミアム」な消費行動を導いてくれると考えています。
繰り返しになりますが、パーソナルとは、データの活用によって個々人に最適化されたサービスが受けられるようになること。たとえば、健康状態や日々のお金の使い方、移動の手段やコストが可視化されて、最適なサービスが提示されるようになるでしょう。

エシカルとは、地域の活性化や環境問題など、社会課題の解決につながる選択肢を選ぶようになること。たとえば、値段が安くて自分が属するコミュニティに負荷をかけるのなら、多少値段が高くてもコミュニティの負荷を減らせる商品やサービスを選ぶようになる。

そして、プレミアムとは、自分の満足感を得るために、より良い商品やサービスを手に取るようになること。商品やサービスの提供者が持っている背景やストーリーに共感して、社会をより良い方向へもっていくための消費行動を取るようになるでしょう。

佐藤

今日はありがとうございました!

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