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IT業界の先駆者とイノベーションが生まれる環境を考える(3/3)

今やデジタル後進国となってしまった日本。この国でビジネスを展開する私たちには、どのような意識が必要なのか。イノベーションを起こすために、どのようなマインドが求められるのか。

そんな課題意識をもとに、日本IT業界の草分け的存在の木寺祥友さんとともに日本のITビジネスの“これまで”と“これから”を考えていく本企画。第1回では日本と海外のIT業界の現状、第2回ではWeb3時代のインターネットについて聞きました。

最終回となる今回は、イノベーションに欠かせないデータ流通の今後と、そのときにDot to Dotが持つ可能性について、Dot to Dot企画メンバーと行った対談の様子をお届けします。


目 次

近い将来、クラウド幻想が崩壊する「Xデー」がやってくる?来るべき“そのとき”に向けて。
訪れるPeer to Peerの時代。企業のマーケティング活動の変化を読む。
Dot to Dotが促す、信頼をベースにした企業活動

木寺 祥友

(きでらよしとも)

横浜市生まれ。パソコン黎明期よりIT業界へ足を踏み入れ、日本初のJavaプロジェクトにかかわり日本人としてはじめてJavaをプログラムする。
携帯電話にJavaが搭載されることを機に株式会社エル・カミノ・リアルを設立。NTTドコモ504iシリーズのiアプリ(携帯Java)のプラットフォーム作りに携わる。ラスベガスにおいて米国最大の携帯電話コンファレンスCTIAで講演。スマートフォンJavaともいえるアンドロイドの開発にも関わる。
政府系のIT組織、社団法人オープンガバメント・コンソーシアム顧問。

佐藤 歌音

(さとうかのん)
BIPROGY株式会社
戦略事業推進第二本部 事業推進第二部
企業共創プロジェクト1G

2021年大学卒業後、日本ユニシス株式会社(現BIPROGY株式会社)に入社。配属後から、パーソナルデータ流通プラットフォーム「Dot to Dot」の新規企画、並びに価値交換基盤「doreca」のイシュアー企業開拓に従事。2年目の今年度から本格的に「Dot to Dot」の販売戦略チームに参画しており、当サービスについて絶賛勉強中。

近い将来、クラウド幻想が崩壊する「Xデー」がやってくる?
来るべき“そのとき”に向けて。

佐藤

まずは、木寺さんが考えるこれからのデータ流通のかたちについて教えてください。

木寺さん

今、私が思っているのは、クラウド幻想の崩壊。

今は多くのデータをクラウドに保存している人も多いし、SaaSビジネスも栄えています。でも、将来ハッカーにクラウドを攻撃されて多くのデータが消失されてしまう「Xデー」が起こるかもしれない。そうなったときの対策は、今からしておいた方がいいと考えています。

佐藤

たしかに、今は限られたインフラサービスにデータが一極集中している現状がありますよね。そこが止まってしまったら、ビジネス全体がストップしてしまう。
そうでなくとも、クラウドからデータが流出したとき、個人情報を扱うサービスがそのクラウドに集まっていればいるほど、社会的な影響は大きくなりそうです。

木寺さん

そう。原子力発電所で事故が起こるのは天文学的な確率だと言われていましたが、実際に起きてしまった。それと同じで「クラウドは安全だ」と信じている人も多いけれど、決して完璧ではないんです。

だから、クラウドではない新しいデータベースのかたちを考えた方がいい。

かつて私は「ジャグリングデータベース」という概念を提唱していました。それは、データを1箇所に置かず、まるでジャグリングするようにデータベース内をぐるぐる回す仕組み。そうすると、仮に1箇所を攻撃されたとしても、そこには既にデータがないから被害を防げます。

このような考え方に近いのがPeer to Peerなんです。

佐藤

中央集権的にデータを集めるのではなく、分散しながらデータが動いていく、という点ではたしかにそうですね。

木寺さん

これからは今までのデータ流通のあり方とは、違う考え方が求められます。

第1回目でも話しましたが、インターネットが商業利用されるようになって、今は資本主義的な側面が強くなりすぎている。そこから民主主義的なインターネットへの揺り戻しが来ているのが今なんです。民主主義の側面が現れてくると、「利益の追求のために何でもあり」ではなく、平等・公平が基準になってくる。そうなるとデータ流通においても、個人のデータの用途は自分で決めていく世界に変わっていくでしょう。

逆にいえば、一人ひとりがしっかりと自分でデータを管理する必要がある世界です。
その状況がさらに進むと、自分のデータは自分の手元に置くほうが都合がよい。「クラウドではない」という意味では自分でサーバーを立てたほうがよいという流れになるかもしれません。

インターネットとはつまるところネットワークなので、自分でサーバーを立てても世界中の人がアクセスすることができる。その原点に立ち返れたらいいと思います。

佐藤

決してクラウドサービスだけが世界中からアクセスできるわけではない、と。

木寺さん

はい。ただ、Peer to Peerでデータをやり取りしたいとなっても、それを実現させるインフラが必要です。そんなときにDot to Dotが価値を発揮するのではないでしょうか。

訪れるPeer to Peerの時代。企業のマーケティング活動の変化を読む。

佐藤

Peer to Peerのプラットフォームになることは、まさにDot to Dotが目指していることです。では、Peer to Peerの世界は企業活動にどのような変化をもたらすのか、木寺さんの考えを聞かせてもらってもいいですか?

木寺さん

ひとつは、マーケティング活動が大きく変わるでしょうね。

これまでは、いかに生活者に振り向いてもらうかを重視するアテンション型。できるだけ広くアプローチして、その何割かを顧客にする手法がメインでした。でも、それってはっきり言って無駄打ちが多いし、生活者も辟易していますよね。
一方、これからのマーケティングは、生活者の意思をもとにしたオプトイン型に変わるでしょう。生活者が何かを欲しいと思ったとき、信頼している企業にすぐに応えてもらう。その方が生活者も嬉しいじゃないですか。

インターネットの本質って、1対nのマス型よりも、1対1のリアクティブなところにあると思うんです。

佐藤

たしかにメルマガを打って仮に購入率5%だったとしても、見方を変えればもしかしたら95%のヘイトを溜めてしまっているかもしれない。

木寺さん

そう。だから、情報がみんなに行き渡ることは、これからはデメリットになり得るんですよ。
「みんなとつながる必要はない。自分が求める相手とだけつながればいい」……そんな意識が広がっていくと思います。

メルマガは大々的な広告と比べてコストがかからないかもしれないけれど、信用という資産を大きく損なっている可能性がある。信用はお金に換算できないから実感しにくいけれど、大切な視点ではあると思いますね。

佐藤

ほかにもPeer to Peerのメリットはありますか?

木寺さん

はい。たとえばコストメリットです。

クラウドサービスの場合、あらゆるデータをサーバーに通すとなると、重いデータになればなるほどとても負荷がかかる。その分、利用者側のコストも高まります。でも、Peer to Peerの場合、重いデータも直接やり取りしてもらうことが可能になる。しかも、その方がサーバーを通さない分、結果的に品質もよくなるんですよね。

音声データや動画データそのものはお互いでやり取りしてもらって、プラットフォーム側は「誰と誰が何分通話したか」などの記録だけ残すサーバーを用意すればいい。必ずしも「何を話したか」まで把握する必要はないんです。

佐藤

そこは私たちも重要だと思っています。

たとえば、私たちとしては、やり取りされたデータの本人確認をできればいいだけのケースもある。個人情報を守るために莫大なコストをかけるよりは、「本人確認をした」という結果だけが担保できる方法を選択したほうがよいと考えています。

Dot to Dotが促す、信頼をベースにした企業活動。

佐藤

では、これからPeer to Peerの時代が到来するとなったとき、企業にはどのようなマインドが重要になるのでしょうか?

木寺さん

繰り返しになりますが、まずは信頼を損なわないことでしょうね。

第1回でも話しましたが、これからは民主主義的なインターネットの時代。
「価値」や「貢献」が可視化される中で、信頼できない企業・信頼できる企業は市民によってレビューされる。そうすると、生活者はより信頼できる企業にデータを提供したり、サービスを頼む動きを加速させるでしょう。

そのとき、企業は自分たちがどのような用途・仕組みでデータを活用しているのかを明らかにする必要が生じてくる。まさにトラストあるデータ流通を実践するんです。それが一番のマーケティングになると思います。

佐藤

私たち自身、アテンションを取るためにマーケティング予算をかけるより、もっとユーザーが求めるものに対して的確に、即時に応えるために予算をかけられる世界になったらいいなと思います。
その方がもっと豊かなサービスが世の中に生まれていくはずだと思うので。

木寺さん

まさに「お金」を先に考えるのではなく「生活者」を先に考えるということ。

仮にすぐに儲かる手法があったとしても「それって生活者のためになるの?」「生活者の信頼を得られるか?」と立ち返る意識は必要だと思います。

佐藤

Dot to Dotも、信頼性を可視化するプラットフォームになれたらいいなと考えています。Dot to Dotを使っていることが、ある意味信頼の証になれば、よりこれからの時代に求められるインフラになるはずなので。

木寺さん

ただ、まだまだ今は過渡期。いきなり生活者に「これからはみなさんの意思をもとにしたデータ活用をはじめます。だから、みなさん意思を示してください」といっても混乱するだけ。

だから、丁寧なコミュニケーションが必要だと思います。

佐藤

たとえば、「あなたのパーソナルデータを提供してくれたら、こういう用途・仕組みで活用して、こうやって還元します」といったような説明があるといいかもしれないですね。

木寺さん

そう。だから、まずは選択肢を提示してあげること。たとえば「パーソナルデータを提供しなくてもサービスは使えます。だけど、もしパーソナルデータを提供してくれたらこういう風に還元します」のように。それも、ある意味、生活者の意思を尊重した民主主義的なコミュニケーションですから。

佐藤

ありがとうございました。

では、最後にDot to Dotに期待することを教えてください。

木寺さん

Dot to Dotは、新たなインフラになるでしょう。これからは、Peer to Peerがスタンダードになる。でも、その仕組みをいちからつくるのはとても大変です。

だから、すでにDot to Dotという存在があるのは、幸いなこと。
あとは、このプラットフォームの上に乗って、何をするのか、どんなサービス展開ができるのかを考えるだけ。Peer to Peerの特性を活かして、ここから豊かなサービスが生まれることを期待しています。

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